シナリオ特訓道場

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番外編:短編シナリオ「宙旅行」②

こんにちは、カモトモです。

it was birth day!


一昨日は、僕の誕生日だったのですが


父親が突然パフェを作り始めました。


色合いや造形こそあまりよくないものの


なんだが甘さ以上に


胸に染みるなにかがありました。


家族は大事ですね。。。




さて、今日はそんな家族のやりとりが見える話です。


「宙旅行」の第二話目最終話です。


第二話 予見不能な未来へ


○旅行船
最新鋭の船体だが内部には簡単な機械があるだけの宇宙船。
何人かがはしゃぎながら窓をのぞいている。
真っ黒な空間に宇宙ステーション


窓辺に座りカメラのシャッターを押す水瀬華(18)。
出来上がりを見て眉間にしわを寄せる。


機械の声「警告 誘導電波喪失 直ちに目的地を再設定してください」
ざわめく船内


机で端末を操作する隼人のもとに、橘剛志(18)が駆け寄り
橘「おい隼人。お前の父さん、電波状況良好だって言って…」


隼人「ああ、でも状況が変わったみたいだ」
と窓の外を指す。


宇宙船ステーションの横を通っていく岩の塊。


開いた口を手で覆う橘。


隼人、立ち上がって
隼人「どうやら、あれが電波発出機を破壊したらしい」
と外部通信パネル前に座る。


○宇宙ステーション・中央管理室
壁のモニターには宇宙船に関するデータが表示されている。
忙しく動き回る管理員。
中央付近では机に両手をつき下を見つめる進平と資料を見つめる麻友。


下村、勢いよく部屋に入ってくる。
息を切らしながら
下村「非常装置、設置できました」


進平、下を向いたまま
進平「接続状況は」


下村、制御パネル前に座る橋本に目配せする。


橋本、素早くパネルを操作する。
橋本「つながりました。しかし、」


進平「しかしなんだ」


橋本「エネルギーが弱く大型船に電波発出できません」


麻友、頭を抱えて
麻友「そんな。地球に向かっている大型船がコントロールを失えば…」


進平「ロンギヌスの槍だ」
と顔を上げる。


進平「大型船に全出力を振り分けることは」


橋本「可能です」


進平「旅行船の軌道のブレ率は」


橋本「5パーセント未満です」


進平、胸のポケットから一枚の写真を取り出す。若い頃の進平が小さい男の子を抱き上げている写真。進平、写真の中の男の子のほっぺを触る。


進平「隼人…、必ずまた地球で会おう」
と写真をしまう。


進平、制服の襟を正し
進平「全出力を大型船に振り分けろ」


橋本、素早く操作する。


麻友、進平に駆け寄り
麻友「東条さん、ダメです」


進平「地上管制塔には着陸予定地の安全確保の連絡を」


麻友「東条さん。息子さんがどうなってもいいんですか」


進平、麻友の方に向き
進平「横川、宇宙航行法第12条A項にはなんて書いてある」


麻友「宇宙航行中の船舶の救援は、地球大気圏との距離が最も短い船舶を第一順位として、これを行われなければならない」


進平「旅行船と大型船、大気圏までの距離はどちらが短い」


麻友「お、大型船です。ですが」


進平「もうなにも言うな」


麻友「し、しかし」


進平「言うなと言っているだろ」
と机を叩く。


静まり返る室内


進平、強く拳を握り
進平「下村、旅行船に繋いでくれ」


下村、持ち場に戻りパネルを操作する。


○旅行船
外部通信パネルの周りに集まる乗組員
隼人、パネル前に座り作業する。
隼人の周りには橘剛志、河合優(18)、水瀬華(18)が
落ち着かない様子で立っている。
パネルに進平が映る。


河合、パネル前に出て
河合「おい、隼人の父さん。電波喪失ってどういうことだよ」


橘「おれらどうなるんだよ」


華「帰れなくなるの、私達」


隼人「みんな、落ち着けって」
と鉄製の椅子の表面をける。


静まる一同


隼人「ひとまず父さんの話を聞こう」


進平の声「まもなく通信可能エリア外だ。手短に君たちの船の現状を報告する」


パネルに宇宙ステーションが表示される。


進平の声「当ステーションは小惑星の接近によって誘導電波発出装置の必要電源を喪失した」


宇宙ステーションに小惑星の一部がぶつかる映像に切り替わる。


進平の声「幸い非常装置により一部電波を発出することが可能であり、現在航行中の我々の管轄船舶は、地球帰還中の大型宇宙船と君たちの旅行船の2船だけである」


それぞれの宇宙船のモデルとデータ表に切り替わる。


進平の声「しかし、両方の船舶に対して電波を発出することは、残念ながらできない」


宇宙船モデルの表示が交互に明滅する


進平の声「つまり、我々はどちらに電波を発出するか決断しなければなくなった」


橘「で、どっちを選択したんだよ」
と前のめりになる。


宇宙航行法12条A項の条文が画面の下部に表示され
大型宇宙船のモデルのみ点灯する。


進平「誠に残念だが、我々は、両船舶の地球までの距離を計測した結果、当該条項に基づいて、大型宇宙船に優先して電波を発出することを決めた」


ざわつく周り


橘剛志、顔を手で覆い
橘剛志「じゃあ、俺たちはどうなるんだ」


進平の声「電波装置が復旧するまで電波の誘導無しで航行してほしい」


河合「どんくらいで復旧するんだ」


進平の声「5年だ」


河合優「5年って、俺たちは5光年相当の距離彷徨うってことか」


橘剛志「おい、たしかこの船は全自動で操縦桿はないって話だ。おれたちは見殺しか」
とパネルに顔を近づける。


河合優「あんた正気か。ここにはあんたの息子が乘っているんだぞ」


うつむく隼人


進平の声「規定に従ったまでだ。残念だが仕方ないことだ」


泣き出す水瀬華


頭をかきむしる橘剛志


進平の声「だがな…」


隼人、うつむいたまま
隼人「父さん、ひとつだけ聞きたいことがある。俺たちの航行軌道上に障害物はある」


進平の声「誘導を失った事で生じた軌道のズレは5%未満だ。その範囲での小惑星の衝突予測も今もところ確認されていない。しかし、今後どうなるかは不明だ」


隼人「そう。分かった」
と目頭を押さえる。


隼人立ち上がり
隼人「必ず戻るよ、父さん」
とパネルの電源を消す。


橘「おい、てめぇ。なにすんだよ。助かる方法を言ったかもしんないだろ」
と隼人に詰め寄る。


河合「もうすぐ通信可能エリア外だ。あぁ、完全に終わりだ」


隼人、ゆっくりと旅行船の中央に向かう。
みんなの方に向き
隼人「なぁ、喜べよ。地球に帰れるぞ」
と手を広げる。


河合優「なにいってんだ」


水瀬華「誘導もなく、操縦桿もないのに。そんなのありえない」


隼人、旅行戦の中央にある食料備品の前に立ち
隼人「まず、第一に俺たちは航行路の目標を失っただけで、食料と時間は十分ある」
と食料備品に寄りかかる。


隼人、中央テーブルにある旅行船のミニチュアモデルを手に取り
隼人「第二、父さんによれば、航行中、小惑星の衝突の心配はない」
と飛ばすマネをする。


一同ざわつく。


隼人、中央のテーブルの上に立つ。


隼人「それに、俺たちは、人類史上初めて「地球」というカセから開放されたんだ」


静まり返る室内


河合「そういったって」


隼人「優、今この状況に恐怖を感じる」


河合「そりゃ、このまま宇宙で死ぬって決まったようなもんだし」


隼人「じゃあ、恐怖で動かないとどうなる」


河合「確実に宇宙で死ぬ」


隼人「じゃあ、俺たちが今から死ぬ気で帰還や脱出方法を考え始めたら」


河合「生き残れるかもしれない」


隼人「そんなわずかな可能性に人生を賭ける。
   そんなこと地球じゃありえない。
   予め見える決まりきったことをさせられる」


隼人「だけど、宇宙は違う」
と拳を固く握る


隼人「だから、父さんは、この宇宙で、俺らの見えない可能性を信じて電波を切ったんだ」
とうつむく。


橘剛志「隼人」


隼人、テーブルから降りみんなの方へ行って
隼人「俺はそう信じる。必ず生きて帰るんだ。地球に」


一同、顔を見合わせる。


河合優「あぁ、そうだな。絶対帰ろう」


水瀬華「そうね」


橘「絶対かえんぞ」


拳を突き出す隼人


一同、拳を頭上に上げる


(end)



宇宙のほうが環境変化が少なく可能性が決まっているように思えるけど、人間の可能性という点では地球のほうが窮屈だったりするんですかね。


では、ばいなら。。


カモトモ